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フロンガスの回収とは|法的義務と実務手順の完全ガイド(2025年最新版)

フロンガスの回収とは|法的義務と実務手順の完全ガイド(2025年最新版)

2025年3月25日

エネルギー

フロンガス回収 企業コンプライアンス 環境法令

フロンガスの回収とは、エアコンや冷凍冷蔵機器などから、環境に有害なフロン類を適切に抜き取り、再生または破壊処理する一連のプロセスです。企業が所有する業務用機器については、フロン排出抑制法により回収が義務付けられており、違反した場合には最大100万円の罰金が科される可能性があります。本記事では、企業の環境・設備担当者が知っておくべきフロンガス回収の基礎知識から、法的義務、費用の目安、回収業者の選定基準、証明書の管理方法、社内体制の構築まで、ESG経営時代に求められるフロンガス管理の実務に役立つ情報を体系的に解説します。

1. フロンガス回収の基礎知識

1.1 フロンガスとは何か

フロンガスとは、クロロフルオロカーボン(CFC)、ハイドロクロロフルオロカーボン(HCFC)、ハイドロフルオロカーボン(HFC)などの総称です。化学的に安定しており、不燃性・無毒性という特性から、エアコンや冷蔵庫などの冷媒として広く使用されてきました。特に業務用機器では、大型冷凍機や業務用エアコン、ショーケースなど多くの設備に使用されています。フロンガスは一般的に気体の状態で存在しますが、圧縮により液化して使用されることが多く、機器の修理・廃棄時には適切な回収が必要となります。

1.2 フロンガスによる環境問題(オゾン層破壊・地球温暖化)

フロンガスが環境に与える影響は主に二つあります。一つ目はオゾン層破壊です。特にCFCやHCFCは大気中に放出されると成層圏まで達し、太陽からの紫外線によって分解され、塩素原子を放出します。この塩素原子がオゾン層を破壊し、地上に到達する有害な紫外線量を増加させます。二つ目は地球温暖化への影響です。HFCを含むフロンガスは二酸化炭素の数百倍から数千倍もの温室効果を持ち、地球温暖化の原因物質として国際的に規制対象となっています。わずかな漏えいでも大きな環境負荷となるため、企業の環境責任として慎重な管理が求められています。

1.3 フロンガス回収が必要な理由

フロンガスの回収が法的に義務付けられている最大の理由は、前述の環境問題を防止するためです。特に日本ではフロン排出抑制法により、業務用機器の管理者に対して厳格な管理と回収が求められています。また、国際的な取り組みとしてモントリオール議定書やキガリ改正によりフロンガスの生産・消費量の削減目標が設定されており、企業のESG評価やSDGsへの取り組みとしても重要性が高まっています。さらに、適切な回収と処理を行わない場合、最大100万円の罰金が科される可能性もあるため、コンプライアンス上も重要な課題となっています。

1.4 業務用機器に使用されるフロンガスの種類

業務用機器には様々な種類のフロンガスが使用されています。代表的なものとしては、R22(HCFC-22)、R410A、R32、R134aなどがあります。これらは使用目的や機器の種類によって使い分けられています。R22は古い空調機器に多く使用されていましたが、オゾン層破壊係数があるため現在は新規機器への使用が禁止されています。R410AやR32などのHFC冷媒は、オゾン層を破壊しないため代替フロンとして普及していますが、高い温暖化係数を持つため管理が必要です。機器の種類によって使用されているフロンガスが異なるため、回収時には事前に種類を確認することが重要です。

フロンガスの回収とは|法的義務と実務手順の完全ガイド(2025年最新版)

2. フロン排出抑制法の概要

2.1 法律の目的と変遷

フロン排出抑制法(正式名称:フロン類の使用の合理化及び管理の適正化に関する法律)は、オゾン層保護と地球温暖化防止を目的として制定された法律です。もともとは2001年に「フロン回収・破壊法」として施行され、2015年に現在の「フロン排出抑制法」に改正されました。この改正により、単なる回収義務だけでなく、機器の使用段階における漏えい防止や定期点検なども義務化されました。さらに2020年4月からは、機器廃棄時のフロン回収が確認できない場合、機器を引き取ることができないという規制が強化され、罰則も厳格化されています。企業の責任者は、この法律の変遷と最新の要件を理解しておく必要があります。

2.2 対象となる第一種特定製品とは

フロン排出抑制法において、フロンガスの回収義務の対象となるのは「第一種特定製品」と呼ばれる業務用の機器です。具体的には、業務用エアコン(ビル用マルチエアコン、パッケージエアコンなど)と業務用冷凍冷蔵機器(冷凍冷蔵ショーケース、業務用冷蔵庫、冷凍機など)が該当します。一方、家庭用エアコンや冷蔵庫は「家電リサイクル法」の対象となり、フロン排出抑制法の対象外です。判断基準としては、「業務用として製造・販売されているか」「圧縮機の定格出力が0.75kW以上か」などがあります。企業が保有する機器が第一種特定製品に該当するかどうかは、機器の仕様書や銘板で確認できます。

2.3 管理者(機器所有者)の義務と責任

フロン排出抑制法では、第一種特定製品の所有者または使用者を「管理者」と定義し、様々な義務と責任を課しています。主な義務としては、①機器の定期点検(7.5kW以上の機器は3ヶ月に1回の簡易点検と年1回の専門業者による定期点検)、②フロンガス漏えい時の修理、③フロンガス充填・回収の記録作成と保存(機器廃棄後3年間)、④年間漏えい量が1,000CO₂-t以上の場合の報告、⑤機器廃棄時のフロンガス回収の委託などがあります。これらの義務を適切に果たさない場合、罰則の対象となるだけでなく、環境への悪影響や企業評価の低下にもつながります。

2.4 違反時の罰則規定

フロン排出抑制法の違反に対しては、厳格な罰則規定が設けられています。特に重大な違反とされるのは、機器廃棄時にフロンガスを回収せずに放出する行為で、最大100万円の罰金が科される可能性があります。また、2020年4月の法改正により、機器の廃棄時に「引取証明書」の交付を受けずに機器を廃棄した場合、50万円以下の罰金が科されます。その他、点検の未実施や記録の未作成・未保存などの義務違反に対しても、行政指導や勧告、命令、企業名の公表など段階的な措置が取られ、最終的には罰金刑に至ることもあります。コンプライアンス上のリスク管理としても、これらの罰則を理解しておくことが重要です。

3. 企業に課せられるフロンガス回収の義務

3.1 機器使用時の定期点検義務

企業が所有する第一種特定製品には、定期的な点検が義務付けられています。この点検は、フロンガスの漏えいを早期に発見し、環境への放出を防止するためのものです。点検には「簡易点検」と「定期点検」の2種類があります。簡易点検はすべての第一種特定製品に対して3ヶ月に1回以上実施する必要があり、機器の異常音、油もれ、損傷などを確認します。一方、定期点検は圧縮機の定格出力が7.5kW以上の機器が対象で、専門知識を持つ者(冷媒フロン類取扱技術者など)による1年に1回以上(7.5kW以上50kW未満の場合は3年に1回以上)の点検が必要です。点検結果は記録し、機器廃棄後も3年間保存する必要があります。

3.2 漏えい報告の義務

企業は、所有する全ての第一種特定製品からの年間フロンガス漏えい量を算定し、一定量を超える場合には報告義務があります。具体的には、1年間(4月1日から翌年3月31日まで)の漏えい量が二酸化炭素換算で1,000トン以上となった場合、翌年7月末までに「フロン類算定漏えい量等の報告書」を国に提出する必要があります。この報告は、事業所管大臣と環境大臣の双方に対して行います。フロンガスの種類によって地球温暖化係数が大きく異なるため、実際の漏えい量(kg)に地球温暖化係数を乗じて算出します。例えば、R410Aは1kgの漏えいで約2トンのCO₂に相当するため、500kg程度の漏えいで報告義務が発生します。

3.3 廃棄時の回収義務と手順

機器を廃棄する際、企業にはフロンガスの回収を第一種フロン類充填回収業者に委託する義務があります。2020年の法改正により、この手順は以下のように厳格化されました。まず、機器廃棄の30日前までに「第一種特定製品廃棄等実施者」として、フロン類充填回収業者に回収を依頼し、「委託確認書」を交付します。次に、回収業者から「引取証明書」を受け取り、それを廃棄物・リサイクル業者に提示して初めて機器の引き渡しが可能となります。この流れを「回収依頼→回収実施→証明書取得→機器廃棄」という順序で必ず行う必要があり、証明書なしでの機器廃棄は違法となります。機器の廃棄を計画する際は、この回収手順を考慮したスケジュール調整が重要です。

3.4 回収証明書の取得と保存義務

フロンガス回収後に充填回収業者から発行される「引取証明書」は、法令で定められた重要な書類です。この証明書には、回収年月日、回収した機器の種類、回収したフロンガスの種類と量、回収業者の情報などが記載されています。企業はこの証明書を3年間保存する義務があります。また、この証明書は機器廃棄時の適正処理の証明となるため、環境監査や行政の立入検査の際にも提示を求められることがあります。紛失した場合は回収業者に再発行を依頼することも可能ですが、確実に管理する体制を整えておくことが望ましいでしょう。大企業では、電子管理システムを導入して証明書を一元管理するケースも増えています。

4. フロンガス回収の実務手順

4.1 フロンガス回収が必要なタイミング

フロンガスの回収が必要となるタイミングは主に3つあります。第一に機器の廃棄時です。老朽化や設備更新により機器を処分する際には、必ずフロンガスを回収してから廃棄処分する必要があります。第二に機器の移設時です。オフィス移転などで空調機器を別の場所に移設する場合、一度フロンガスを回収し、移設後に再充填するのが一般的です。第三に大規模な修理時です。冷媒回路に関わる修理を行う際には、作業の安全性確保や環境配慮のためにフロンガスを一時的に回収します。また、冷媒の種類を変更する「コンバージョン」を行う場合も回収が必要です。計画的な設備更新や移転の際には、フロンガス回収のための時間と費用を事前に見積もっておくことが重要です。

4.2 回収業者の選定基準

フロンガスの回収は、都道府県知事の登録を受けた第一種フロン類充填回収業者に依頼する必要があります。業者選定の際には、まず登録業者であることを確認した上で、以下の点を考慮するとよいでしょう。①回収実績と専門性:特に自社が保有する機器と同種の機器の回収経験が豊富か。②対応の迅速さ:緊急時の対応や予約から作業までの期間。③料金体系の透明性:回収費用、処理費用などの明確な提示があるか。④証明書発行の確実性:法定書類の迅速かつ確実な発行体制。⑤アフターフォロー:報告義務などのサポート体制。大手メーカーのサービス会社や専門の回収業者など、複数の業者から見積もりを取り、比較検討することをお勧めします。

4.3 回収費用の目安と見積もりのポイント

フロンガスの回収費用は、機器の種類、サイズ、フロンガスの種類と量によって大きく異なります。一般的な業務用エアコンの場合、基本料金として10,000~30,000円程度、これに加えてフロンガス1kgあたり2,000~5,000円程度の処理費用がかかります。大型の冷凍機では合計で10万円を超えることも珍しくありません。見積もりを依頼する際のポイントとしては、①基本料金と処理費用の内訳を明確にすること、②回収するフロンガスの予想量を事前に確認すること、③複数の機器を同時に回収する場合の割引の可能性を確認すること、④追加費用(高所作業や休日対応など)の有無を確認することが重要です。適切な予算計画のためにも、複数の業者から見積もりを取得することをお勧めします。

4.4 回収作業当日の流れと確認事項

回収作業当日は、担当者が立ち会い、以下の流れと確認事項に注意しましょう。まず作業前の確認として、①回収対象機器の特定と作業範囲の確認、②作業による業務への影響範囲の確認、③安全対策の確認を行います。作業中の確認としては、①回収作業の手順が適切か、②回収装置や配管の接続に漏れがないか、③回収中の圧力変化が正常かをチェックします。作業後の確認では、①回収されたフロンガスの種類と量の記録、②回収証明書の記載内容、③機器の状態(回収後の処置が適切か)を確認します。特に重要なのは回収証明書で、記載内容(日付、回収量、機器情報など)に誤りがないか、必要事項が漏れなく記入されているかを必ず確認してください。

5. 回収フロンの処理と再利用

5.1 回収後のフロンガスの処理方法

回収されたフロンガスは、再生処理または破壊処理のいずれかの方法で処理されます。回収業者は、回収したフロンガスを自ら処理するか、フロン類破壊業者等に引き渡す義務があります。再生処理とは、回収されたフロンガスを精製して不純物を取り除き、新品同様の品質に戻す処理です。一方、破壊処理とは、フロンガスを化学的に分解して無害化する処理で、高温焼却法、プラズマ法、触媒分解法などの方法があります。どちらの処理方法を選択するかは、フロンガスの種類、汚染度、需要などによって決まりますが、環境負荷の少ない破壊処理が選択されることが多くなっています。処理方法の選択は回収業者が行いますが、企業側から環境配慮型の処理方法を指定することも可能です。

5.2 再生利用と破壊処理の違い

再生利用と破壊処理にはそれぞれメリット・デメリットがあります。再生利用のメリットは、資源の有効活用によるコスト削減と、新規製造に比べて製造時のCO₂排出量が少ないことです。一方デメリットは、再生処理できる施設が限られることや、すべてのフロンガスが再生に適しているわけではないことです。破壊処理のメリットは、確実に環境への排出を防止できることと、どのような種類・状態のフロンガスでも処理可能なことです。デメリットは処理コストが高いことです。近年は、特定フロン(CFC、HCFC)の製造が規制されているため、再生利用のニーズも高まっていますが、汚染度が高いものや混合ガスは破壊処理が選択されます。企業としては、環境負荷とコストのバランスを考慮して最適な方法を選択することが重要です。

5.3 処理証明書の見方

フロンガスの回収・処理後には「フロン類回収・破壊証明書」が発行されます。この証明書には、①回収したフロンガスの種類と量、②処理方法(再生または破壊)、③処理を行った事業者の情報、④処理完了日などが記載されています。証明書を確認する際のポイントは、まず記載されている数量が回収時の記録と一致しているかをチェックすることです。また、処理方法が適切に選択されているか、処理完了日が妥当な期間内かも確認してください。この証明書は、フロンガスが適正に処理されたことの証明となるため、環境報告書作成や環境監査の際の重要な資料となります。法令上は保存義務はありませんが、環境マネジメントの観点から3年程度の保存をお勧めします。

5.4 環境負荷低減効果

フロンガスの適切な回収と処理によって得られる環境負荷低減効果は非常に大きいものです。例えば、業務用エアコンに一般的に使用されるR410Aの地球温暖化係数(GWP)は約2,090であり、1kgの漏えいが約2.09トンのCO₂排出に相当します。10kgのフロンガスを適切に回収・処理すれば、約21トンのCO₂排出削減に相当する効果があります。これは、自動車が1年間に排出するCO₂量に匹敵します。また、回収・処理による環境貢献を企業のESG評価や環境報告書に反映させることで、企業価値の向上にもつながります。具体的には、フロンガス回収による温室効果ガス削減量を「スコープ3」として算定し、開示することができます。環境負荷低減と企業価値向上の両面から、適切な回収・処理の実施が重要です。

6. フロンガス管理体制の構築方法

6.1 社内管理体制の整備ポイント

効果的なフロンガス管理体制を構築するためには、以下のポイントに注意して社内体制を整備する必要があります。まず、①責任者と担当者の明確化です。全社的な責任者(環境管理責任者など)と、各事業所・機器ごとの担当者を指定します。次に、②管理対象機器の把握です。自社が保有するすべての第一種特定製品をリスト化し、設置場所、型番、冷媒の種類、充填量などを記録します。③点検・記録のルーティン化も重要です。簡易点検のチェックリストを作成し、定期的な点検と記録を習慣化します。さらに、④関係者への教育として、担当者だけでなく、設備の日常管理に関わる従業員全体に基本的な知識を共有します。最後に、⑤緊急時対応手順の策定も必要です。漏えい発生時の連絡体制や対応フローを明確にしておきましょう。

6.2 管理表(管理票)の作成と運用

フロンガス管理を確実に行うためには、管理表(管理票)の作成と適切な運用が不可欠です。管理表には少なくとも以下の項目を含めるとよいでしょう。①機器情報(設置場所、製造者名、型番、製造年月日、定格出力)、②冷媒情報(フロンの種類、充填量)、③点検記録(点検日、点検者、点検内容、異常の有無)、④整備記録(整備日、整備業者、整備内容、フロン充填・回収量)、⑤漏えい量算定(充填量から算出する年間漏えい量)。この管理表は紙媒体でも電子媒体でも構いませんが、複数の事業所や多数の機器を管理する場合は、専用のデータベースやクラウドシステムの導入が効率的です。管理表は定期的に更新し、責任者による確認を行うシステムを確立することで、法令遵守と環境管理の両面から効果的な運用が可能になります。

6.3 記録の保存と報告義務への対応

フロンガス管理に関する記録の保存は、法令遵守の観点から極めて重要です。フロン排出抑制法では、点検・整備の記録、充填・回収の記録、算定漏えい量の記録などを、機器を廃棄した後も3年間保存する義務があります。保存方法としては、紙媒体でのファイリング、電子データでのバックアップ、クラウドストレージの活用などがあります。特に大企業では、文書管理システムやESG管理システムと連携させることで、確実な保存と必要時の迅速な検索が可能になります。また、年間漏えい量報告への対応としては、各事業所からの漏えい量データを本社で集計し、1,000トン-CO₂以上となった場合は期限(7月末)までに所定の様式で報告する体制を整えておく必要があります。報告義務の要件を満たさない場合でも、自主的な管理・開示を行うことで環境への取り組みをアピールできます。

6.4 管理システムの導入事例

近年、フロンガス管理の効率化と確実性向上のため、専用の管理システムを導入する企業が増えています。導入事例として、A社(大手小売業)では、全国の店舗に設置された約3,000台の業務用冷凍冷蔵機器を一元管理するクラウドシステムを導入しました。このシステムでは、QRコードによる機器識別、タブレット端末での点検記録入力、異常時の自動アラート機能などが実装され、法令遵守と業務効率化を両立しています。また、B社(製造業)では、環境マネジメントシステム(ISO14001)と連携したフロン管理システムを構築し、点検・漏えい量・CO₂換算値などを自動計算・集計する仕組みを導入しました。これにより報告業務の工数が約70%削減されています。こうしたシステム導入は初期投資が必要ですが、法令違反リスクの低減業務効率化、さらにはESG評価向上につながる効果があります。

7. 家庭用機器と業務用機器のフロン回収の違い

7.1 家庭用エアコンの回収制度

家庭用エアコンのフロン回収は、家電リサイクル法(特定家庭用機器再商品化法)に基づいて行われます。この制度では、消費者が家庭用エアコンを廃棄する際、小売業者に引き取りを依頼し、リサイクル料金(3,000~5,000円程度)を支払います。回収された家庭用エアコンは指定引取場所を経由して、家電メーカーが運営するリサイクルプラントに運ばれ、そこでフロンガスが回収されます。この過程で、消費者自身がフロンガス回収の手続きを行う必要はなく、リサイクル料金に回収費用が含まれています。一方で業務用機器とは異なり、家庭用エアコンの場合、フロンガス回収の証明書は発行されません。また、家庭用エアコンの不法投棄や無許可業者への引き渡しは、罰則の対象となる可能性があるため注意が必要です。

7.2 業務用冷凍機・空調機器の回収義務

業務用機器のフロン回収は、先述の通りフロン排出抑制法に基づいて行われます。業務用機器の場合、機器所有者(管理者)自身に回収義務があり、都道府県知事の登録を受けた第一種フロン類充填回収業者に回収を委託する必要があります。回収費用も管理者の負担となります。業務用冷凍機や空調機器は、家庭用に比べて冷媒充填量が多く(数kg~数十kg)、漏えい時の環境影響が大きいため、より厳格な管理が求められます。また、機器の設置から廃棄までの長期間(10~20年)にわたる管理責任があり、定期点検や漏えい報告などの義務も発生します。業務用機器では回収証明書の取得・保存が必須であり、証明書なしでの廃棄は違法となります。

7.3 責任範囲と費用負担の違い

家庭用と業務用機器のフロン回収における責任範囲と費用負担には明確な違いがあります。家庭用機器の場合、責任の主体は基本的にメーカーと小売業者であり、消費者はリサイクル料金を支払うのみです。費用面では、家電リサイクル法に基づく料金体系が全国一律で明確に定められています。一方、業務用機器では機器の管理者(所有者または使用者)が法的責任を負い、回収・処理の手配から証明書の保管まで一連の対応が求められます。費用面では、回収業者ごとに料金体系が異なるため、複数の業者から見積もりを取得する必要があります。また、業務用機器の場合、機器の種類や冷媒の種類によって費用が大きく変動するため、予算計画時の考慮が必要です。

7.4 よくある誤解と注意点

フロンガス回収に関して、企業担当者が誤解しやすいポイントをいくつか解説します。まず、「業務用機器も家電リサイクル法の対象」という誤解です。業務用機器は家電リサイクル法ではなく、フロン排出抑制法の対象となります。次に、「廃棄物処理業者がフロン回収も行ってくれる」という誤解です。廃棄物処理業者が第一種フロン類充填回収業者の登録を持っていない場合、別途回収業者に依頼する必要があります。また、「社内で簡単に回収できる」という誤解もあります。フロン回収は専門知識と設備が必要で、無資格者による回収は違法です。さらに、「家庭用エアコンを業務用として使用していれば業務用扱い」という誤解もあります。実際は、製造時の区分が適用されるため、家庭用として製造されたものは家電リサイクル法の対象となります。これらの点を正しく理解することが重要です。

8. フロン対策とESG・CSR活動

8.1 フロン管理と企業の環境評価

適切なフロン管理は、企業の環境評価やESG評価に大きく影響します。特に近年、投資家や取引先からのESG(環境・社会・ガバナンス)評価において、温室効果ガス排出削減の取り組みが重視されています。フロンガスは温室効果が非常に高いため、その適切な管理と漏えい防止は、企業の環境負荷低減の重要な要素となります。具体的には、CDP(カーボン・ディスクロージャー・プロジェクト)などの国際的な評価では、フロンガスを含む非CO₂温室効果ガスの管理状況が評価項目に含まれています。また、TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)に基づく情報開示においても、フロンガス管理は気候変動リスク対応の一環として位置づけられます。企業価値向上の観点からも、フロン管理体制の整備と積極的な情報開示が重要です。

8.2 効果的な情報開示方法

フロン管理の取り組みを効果的に情報開示することで、企業のESG評価向上につなげることができます。開示方法としては、①統合報告書やサステナビリティレポートでの記載、②環境データ集でのフロンガス漏えい量・回収量の定量的開示、③自社Webサイトでのフロン管理体制や取り組み事例の紹介などがあります。開示する内容としては、フロンガスの管理体制、機器の定期点検実施率、漏えい量(CO₂換算値)、低GWP(地球温暖化係数)冷媒への切り替え状況、フロン回収・再生・破壊の実績などが効果的です。特にフロンガスの漏えい量は、スコープ1排出量(直接排出)として温室効果ガス排出量に含めて開示することが国際的なスタンダードとなりつつあります。開示の際は、単なる法令遵守だけでなく、積極的な環境配慮の姿勢を示すことが重要です。

8.3 先進企業の取り組み事例

フロン対策で先進的な取り組みを行っている企業の事例を紹介します。C社(大手小売業)では、全店舗の冷凍冷蔵機器を対象に、フロン漏えい監視システムを導入しました。このシステムでは、IoTセンサーによるリアルタイム監視と、AIによる異常検知を組み合わせることで、漏えいの早期発見と即時対応を実現しています。これにより、年間漏えい率を従来の10%から3%以下に削減しました。D社(食品メーカー)では、工場の冷凍設備を計画的に自然冷媒(CO₂やアンモニア)に切り替える5カ年計画を策定・実行し、フロンガスへの依存度を大幅に低減しています。E社(不動産業)では、テナントと協力してビル全体でのフロン管理体制を構築し、点検記録や漏えい量をデータベース化して共有することで、テナントも含めた包括的な管理を実現しています。

8.4 今後の規制動向と企業の対応方針

フロンガスに関する規制は今後さらに厳格化する見込みです。国際的には、キガリ改正に基づきHFCの生産・消費量を段階的に削減する取り組みが進行中で、2036年までに85%削減することが目標とされています。国内でも、フロン排出抑制法のさらなる強化や、低GWP冷媒への切り替え促進策が検討されています。こうした動向を踏まえた企業の対応方針としては、①中長期的な設備更新計画の策定(低GWP冷媒や自然冷媒への計画的な切り替え)、②漏えい防止対策の強化(IoT技術の活用による早期検知システムの導入など)、③社内教育・啓発の充実(管理者・担当者向けの専門研修の実施)、④サプライチェーン全体での取り組み(取引先も含めたフロン管理の促進)などが重要です。先を見据えた対応により、将来的なコンプライアンスリスクの低減と環境対応の競争優位性確保が可能になります。

よくある質問と回答

フロンガスの回収は法律で義務付けられていますか?

はい、業務用機器(第一種特定製品)のフロンガス回収は、フロン排出抑制法により義務付けられています。業務用エアコンや冷凍冷蔵機器を廃棄する際は、都道府県知事の登録を受けた第一種フロン類充填回収業者に回収を依頼し、「引取証明書」を取得する必要があります。この義務に違反した場合、最大100万円の罰金が科される可能性があります。なお、家庭用エアコンの場合は、家電リサイクル法に基づいて回収が行われます。

フロンガス回収にはどのくらいの費用がかかりますか?

フロンガス回収の費用は、機器の種類、サイズ、フロンガスの種類と量によって異なります。一般的な業務用エアコンの場合、基本料金が10,000~30,000円程度、これに加えてフロンガス1kgあたり2,000~5,000円程度の処理費用がかかります。大型の冷凍機になると、合計で10万円を超えることもあります。正確な費用は、複数の回収業者から見積もりを取得することをお勧めします。費用は機器管理者(所有者または使用者)の負担となります。

フロンガスの回収業者はどのように選べばよいですか?

フロンガスの回収業者を選ぶ際は、まず都道府県知事の登録を受けた第一種フロン類充填回収業者であることを確認してください。次に、実績と専門性(特に自社が保有する機器と同種の機器の回収経験)、対応の迅速さ、料金体系の透明性、証明書発行の確実性、アフターフォロー体制などを考慮すると良いでしょう。大手メーカーのサービス会社や専門の回収業者など、複数の業者から見積もりを取り、比較検討することをお勧めします。

フロンガス回収の証明書は何年保存する必要がありますか?

フロンガス回収後に発行される「引取証明書」は、フロン排出抑制法により3年間の保存が義務付けられています。この証明書は、機器廃棄時の適正処理の証明となるもので、環境監査や行政の立入検査の際にも提示を求められることがあります。保存方法としては、紙媒体でのファイリング、電子データでのバックアップ、クラウドストレージの活用などがあります。特に多数の機器を管理する大企業では、文書管理システムと連携させて一元管理することをお勧めします。

フロンガスの漏えい報告はどのような場合に必要ですか?

フロン排出抑制法では、所有する全ての第一種特定製品からの年間フロンガス漏えい量を算定し、二酸化炭素換算で1,000トン以上となった場合に報告義務が発生します。この報告は、1年間(4月1日から翌年3月31日まで)の漏えい量を集計し、翌年7月末までに「フロン類算定漏えい量等の報告書」を事業所管大臣と環境大臣に提出します。フロンガスの種類によって地球温暖化係数が異なるため、実際の漏えい量(kg)に地球温暖化係数を乗じて算出します。

家庭用エアコンと業務用エアコンのフロン回収の違いは何ですか?

家庭用エアコンと業務用エアコンのフロン回収には大きな違いがあります。家庭用エアコンは家電リサイクル法に基づき、消費者が小売業者に引き取りを依頼し、リサイクル料金(3,000~5,000円程度)を支払います。フロン回収は家電メーカーのリサイクルプラントで行われ、消費者自身が回収の手続きをする必要はありません。一方、業務用エアコンはフロン排出抑制法に基づき、機器所有者が第一種フロン類充填回収業者に回収を委託し、費用も負担します。また、回収証明書の取得・保存が義務付けられ、証明書なしでの廃棄は違法となります。

フロンガス管理はESG評価にどう影響しますか?

適切なフロンガス管理は、企業のESG評価、特に「E(環境)」の評価に大きく影響します。フロンガスは温室効果が非常に高いため、その適切な管理と漏えい防止は、企業の環境負荷低減の重要な要素となります。CDP(カーボン・ディスクロージャー・プロジェクト)などの国際的な評価では、フロンガスを含む非CO₂温室効果ガスの管理状況が評価項目に含まれています。また、TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)に基づく情報開示においても、フロンガス管理は気候変動リスク対応の一環として位置づけられます。効果的な情報開示を行うことで、投資家や取引先からの評価向上につながります。

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